映画『8番出口』の制作事例から見るTREE VFXの挑戦
映画『8番出口』の制作事例から見るTREE VFXの挑戦

TREE VFX SPOTLIGHT
カンヌ国際映画祭への招待をはじめ、世界中で話題となり大ヒットした映画『8番出口』。原作のゲームと同様、映画でも地下通路を舞台に「進むか、戻るか」というシンプルな行動を繰り返す構造を持つ“誰も撮ったことのない映画”でした。
今回は、映画の実現と成功の屋台骨となったVFX制作の裏側をご紹介します。
STORY
01
前例のない世界を、現実として成立させるVFX
『8番出口』では実際の駅での撮影もあり、終電が終わってから始発が動くまでという限られた時間の中で撮影する必要があり、撮影後は速やかな撤収も求められる緊張感の高い現場となりました。今回の映画について、VFXスーパーバイザーの政本 星爾(LUDENS事業部)は次のように振り返っています。
政本「誰も撮ったことのない映画だったからこそ、毎回“どうやって作るか”を試行錯誤しながら進めていきました。コンテ段階での話し合いや事前のテスト撮影などは綿密に行い準備しましたが、前例のない撮影だったため、本番では新たな気づきがたくさん生まれました。現場では撮り方や芝居を探りながら表現を煮詰め、各セクションが意見を出し合い、ブラッシュアップしていきました。」
冒頭と終盤に描かれる現実世界のシーンは、実写のみで撮影されているように見えますが、実際には多くのVFXが用いられています。駅構内のカットでは複数のロケーションをCGと編集で繋ぎ、ワンショットのように見せています。また、電車内のシーンは停車している車両で撮影を行い、後から窓の外に走行風景を合成しています。駅全体もほとんどがCGで加工されており、駅と電車のシーンだけで結果として映画全体のVFXの約4分の1を占める構成となっています。
通路に入る前の現実空間では、CGだと気づかせないリアリティが特に重視されました。そのうえで、「どこに存在するのかわからない架空の駅」を成立させるため、ゲーム内の通路イメージに近づけるデザイン調整もCGで行われています。
これらの撮影は、東京メトロの全面協力のもとで行われ、駅構内や車両には特別にグリーン設置の許可が与えられました。停車中の車両の窓外にグリーンを貼り、走行しているようなライティングで車内を照らすことで、合成後の映像を自然に馴染ませています。


電車内シーンで撮影の様子
STORY
02
無限通路を成立させる空間設計
無限にループする駅通路のシーンは、実際の駅ではなく、倉庫内にセットを建設して撮影されています。
ループ2周分に相当する全長100m以上の回廊を制作し、「フィジカルによるトリック撮影」と「VFXによる通路の連結」という、2つの手法を組み合わせて空間を成立させています。
直線の長い部分が主人公(二宮和也さん)が“歩く男”(河内大和さん)と毎回すれ違う通路で、印象的なポイントです。
2人がすれ違った直後に“歩く男”が1つ先のループ位置までセットの外を自転車で急いで戻るというフィジカルな仕掛けを取り入れることで、無限に続いているようなループ構造を成立させています。
一方、VFX面では通路端のショットをつなぎ合わせています。
前後カットでのタイルの継ぎ目や艶感、光の反射、映り込みなどを違和感なく一致させる必要があり、その調整には特に苦労がありました。
また、階段付近のシーンでは、スタジオと実際のロケ地の両方で撮影を行い、それらをつなぎ合わせています。この工程で大きな課題となったのが、スタジオとロケ地とでライティング条件が大きく異なっていた点でした。
撮影場所が「スタジオ → ロケ地 → スタジオ → ロケ地」と交互に切り替わる構成のため、光の質や色味が連続して変化する違和感が生じやすい状況でした。
このシーンでは、実写とCGを自然に馴染ませるだけでなく、ライティングの差異を埋めるためのカラーコレクション調整までVFXチームが担い、全体の統一感を作り上げています。
STORY
03
異変をリアルに感じさせる表現への挑戦
映画本編には、さまざまな異変が登場します。洪水のシーンでは、特に波の動きの表現について試行錯誤が重ねられました。通路の洪水を担当した政本は、次のように語っています。
政本「初期の構想では、ややファンタジー寄りの表現を想定していましたが、撮影を進める中で、二宮さんの芝居やカメラワークのリアリティを踏まえ、現実の物理法則の中で成立する表現へと方向転換しました。現実の物理法則では、波は通路の曲がり角では激しくなりますが、直線の部分では荒れません。ただ、映像として求められたのは、“迫ってくる”と感じる波の動きでした。そこで着目したのが“波打ち際”です。引き波と寄せ波がぶつかることで生じるうねりを、CG上で力場制御により再現し、現実にあり得る挙動をベースにダイナミックな洪水表現を成立させました。その後、濁流化や壁面に付着する泥の表現を重ね、今回の映像が完成しました。」
濁流の中のシーンを担当した小嶋 裕士(同事業部)は、このシーンならではの難しさについて次のように述べています。
小嶋「実際の濁流の中にカメラがあったら、すぐに泡で画面が覆われてしまいます。それでは何が起きているのか分からず、映画として成立しません。濁流の中でカメラや漂流物の動きをある程度認識できる視認性と、何が起きているのか分からないというリアルさのバランスをどこに置くのかが、最も難しいポイントでした。」
誰も撮ったことのない構造を映像として成立させるために、表現と物理の間で無数の判断を重ねていく。その積み重ねこそが、『8番出口』におけるTREE VFXの挑戦でした。
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