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ミニカーが世界を広げる——DSJ2026、ヒビノグラフィックスブースでの展示実装レポート

記事執筆:久保木たけし

6月10日から12日の3日間、幕張メッセで開催されたデジタルサイネージ ジャパン2026(DSJ2026)。
Interop Tokyo 2026をはじめとする複数の専門展示会と同時開催された今回のイベントは、同時併催展を合わせた3日間の総来場者数が143,312人にのぼり、会場は大きな熱気に包まれました。

TREE Digital Studioは、ヒビノグラフィックス株式会社のブースに「Tile Pro|Scape X®︎」を活用したコンテンツの制作・実装協力という形で参加。

今回のコンテンツは、以前、取引先や社内関係者限定で公開しましたが(2025年12月の芝浦オフィスお披露目会)、不特定多数の一般来場者に向けて広く披露するのは今回が初めての試みとなります。
会場では、展示筐体やブース入り口にTREEのロゴも大きく掲示され、広くアピールする貴重な機会となりました。
芝浦オフィスお披露目会の記事はこちら


「サイネージの展示会」で異彩を放ったインタラクティブ体験

会場に並ぶのは、最新映像技術を搭載した大型ディスプレイや、商業施設向けのサイネージソリューションがほとんどです。
そのなかでヒビノグラフィックスのブースに足を止めた来場者が目にしたのは、フラットなディスプレイの上でミニカーを動かすと、その動きに呼応して「世界」が広がっていくという、これまでにない体験でした。

「うちの展示の中で一番の注目コンテンツになっていました」——展示会後、ヒビノグラフィックスの担当者様はそう話します。
「とにかく反響が凄くて、来たお客さんに『これなんですか?』『面白いですね』といったお声をいただきました」。

DISPLAX Tile Proを使った展示は他社も出していましたが、Scape Xと組み合わせているブースは他にありませんでした。
サイネージ出展がほとんどの中で、インタラクティブコンテンツが置かれていること自体の物珍しさも、人を引き寄せた理由のひとつといえるでしょう。


TREEが制作したコンテンツ——「置いて、動かして、世界が広がる」

今回TREEが担当したのは、コンテンツの企画・デザイン・実装の全工程です。
制作を手掛けたのは、REALIZE事業部の谷口敦紀氏。
昨年12月のお披露目会でも同コンテンツに携わっており、今回は展示会向けのアップデートを含む再制作となりました。

コンテンツの基本構造は、DISPLAXのタッチセンサー技術とScape Xのオブジェクト認識機能を組み合わせたものです。
ディスプレイ上にミニカーを置くと、その種類を識別し、固有の演出が始まります。
スポーツカーならサーキットでのドリフト走行、パトカーならサイレンを伴うカーチェイス、ヘリコプターならヘリポートからの急上昇とアナログな玩具の動きがデジタルの世界を動かします。

そして今回の最大のアップデートが、「マップの開放」という仕掛けです。
初期状態のディスプレイには輪郭線だけのシンプルな地図が広がっているだけですが、ミニカーを動かすと、その軌跡に沿って未開のマップが次々と開放され、絵を描くように世界が広がっていきます。
車種に応じた世界観のマップが描かれるため、どのミニカーを動かすかで、出現するビジュアルも変わります。

このコンセプトに辿り着くまでには、紆余曲折があったとのことで、
当初はモーターショーでの車両登場シーンなどをリサーチしながら、画面と連動させた背景演出を模索していたといいます。
しかし検討を重ねるなかで、背景の映像がどれだけ凝っていても、ただ眺めるだけでは体験としてつまらないという壁にぶつかったそうです。
本当に面白くするには、体験者自身がミニカーを動かす「動機」と「演出」が地続きになっている必要がある——そう気づいたことが転機となったと谷口氏は語ります。

そこからヒントを得たのは、領域を広げながら競い合う陣取りゲームだったとのこです。
動かすと線が描かれ、線をつなげて陣地を作り、誰かの陣地を上塗りしたくなる。
そうした能動性の構造に着目しつつも、展示会という場に複雑なルールを持ち込むわけには行かないと考えました。
ブースにふらっと立ち寄った人がその場で理解できるよう、要素をそぎ落としていった結果、「動かせば即座にリアクションがあり、さらに動かしたくなる」という直感性だけを残した現在のコンセプトにたどり着いたと振り返ります。


制作の現場——技術と物理の試行錯誤

谷口氏によると、コンテンツの完成度を高める過程で、複数の課題に直面したといいます。

ひとつは、AIを使ったグラフィック制作です。
マップのビジュアルに使う航空写真を生成AIで制作する際、真上からの俯瞰ではなく斜め視点の写真ばかりが生成されるという問題が繰り返し発生しました。
そこで谷口氏が取った手法は、生成結果の失敗要因をAI自身に分析させ、その結果を次のプロンプトへ反映するというものでした。
AIに自らの生成傾向をメタ的に認識させることで、精度を高めていったといいます。
さらに、一度の生成では情報量が足りないため、画像を分割してアップスケールし、再結合するという工程も加えました。



生成AIで作成した車種ごとに対応したマップ(上:パトカー/下:バス)

もうひとつは、物理的な課題です。
ミニカーはアクリル板に固定してディスプレイ上に置く仕様ですが、ヘリコプターやSUVなど車高が高い車種はバランスが取りにくく、展示中の耐久性に問題がありました。
これはホットボンドを少しずつ盛って調整するという地道な作業を何度も繰り返し、最終的に展示運用に耐えられる状態へと仕上げました。

また制作の途中、周囲のフィードバックをきっかけに、ミニカーの情報をUI表示する仕様を追加しました。
これにより、単に「動かして楽しむ」体験に留まらず、「DISPLAXでどんなことができるか」を来場者が具体的に想像できるコンテンツになったのです。


展示会場で生まれた、見知らぬ人どうしの一体感

お披露目会との最大の違いは、複数台のDISPLAXを連結させた広大な盤面を活かした体験設計にあります。
来場者それぞれが思い思いにミニカーを動かすことで、その場にいる人たちが共同でマップを作り上げていきます。
展示会という、見知らぬ者どうしが同じ空間に居合わせる場だからこそ成立する一体感を、コンテンツの設計に織り込んでいます。

「オブジェクトにそのまま反応する直感的な体験は、共通して楽しんでいただけるものだと改めて感じました」と、今回いち来場者として会場を訪れた取締役・高田稔則氏は語ります。

そしてヒビノグラフィックスの担当者様からは、「タッチパネルのように操作するものは当社でも作っていますが、インタラクティブな要素は作れないので、TREEさんと協力できて良かったと思います」とハードウェアに精通した立場からの評価も届きました。
「好きな表現」が、展示体験を動かした
「今回は、自分が学生時代から培ってきたデザインの感覚に非常に近いものでした」と谷口氏は制作を振り返ります。

頭で理解するのではなく身体で触れながら「面白い」と感じてもらえる体験や、意味を詰め込むのではなく、おもちゃのような親しみやすさを持つ抽象的な表現。
コンテンツの方向性と自分の得意とする感覚が自然に重なったことが、クリエイターとしての手応えになったといいます。

今回の展示会の3日間、ブースに来場者が途切れることがなかったという事実が、そのアプローチが正解であった一つの証と言えるでしょう。
仕様書や技術スペックを超えて、直感的な体験そのものが人の心を動かす——それこそが、TREE Digital Studioが目指すコンテンツのあり方です。

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ライタープロフィール:久保木たけし
フリーランスライター。企業へのインタビューを中心に、製品開発の背景や経営思想を取材。徹底したヒアリングに基づき、読者の知的好奇心を刺激する記事を執筆中。

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